本日、早稲田駅に到着し、財布を見て気付いた。札がただの1枚も入っていない事に。これではいくら何でも心許無い。オレは現金を引き出さすために、そのまま自宅の裏にあるセブンイレブンに向かった。
自動ドアをくぐり抜けると、右手にスポーツ新聞が入っているラックがある。真っ先に目が行ったのは、もちろん夕刊フジ。残りは1部のみ。そう思うと同時に、手が伸びていた。
夕刊紙を小脇に抱え込み、オレは入り口とは丁度対角線上にあるATMへ向かって、大股で歩いた。
現金を引き出す。ATMから吐き出された明細に目を落とす。残高が順調に減っている事が分かった。今月はかなり浪費したからねえ。スノボ行ったし、結構モノも買ったし。
様々な場面で、結婚するまでに500万以上は貯金しておくのがベターという話を聞いた事があるが、簡単に言うなうよという感じだね。ちなみに、女性でも300万くらいは必要との事。
でも、300万も貯金している女性がそうそういるとは思えない。女性は貪欲なまでに洋服、アクセサリー、バッグなどの小物類を欲しがりますからね。貯金できている女性は本当にエライと思う。ただ、美味いものを食べず、旅行もせず、ダサイ格好して金だけ余っている女性がいても決して魅力を感じないけどね。
話が本筋から、どんどん逸れていく。
今日は、初めから99shopで買い物をすると決めていたので、オレはそのままレジへ向かう。
バイト店員(男)「このままでいいですか?」
見たことのない顔だ。そして、動きが何だかぎこちない。コイツ、新入りに違いねーな。隣にいる女性店員はお馴染みの人。彼女の元気の良い「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」という声は結構好き。
「このままでいいですよ」
「120円になります」
彼の言葉を聞く前に、オレは財布を確認していた。なんと、小銭は119円しかないではないか。惜しい!心の中で叫ぶ。1,000円を出す。
「1,000円お預かりします。880円のお返しです」
お釣りを受け取り、店を出たオレは99shopへ向かった。
99shopでは、ミックスもやし、チキンカツ、パックの麦ご飯2つを購入。レジにて店員(女。知ってる顔ですね)から伝えられた金額は、449円。
ここで99shopなのに何故と思った方がいたら、その人はとても細かい人だと思います。99shopはその名の通り、取り扱っている商品の大多数が99円(税抜)の店。税込では104円。つまり4品買えば、基本的には416円となるからだ。
449円となった理由は何か。チキンカツは99shopの商品とは無関係の惣菜で、値段が137円だから。このチキンカツかなり美味いので、よく買いますね。完全に蛇足だった。
オレは500円玉で払う積もりで財布の中身を確認した。その刹那、驚愕。財布の中に500円玉がないではないか。おかしい、絶対におかしい。さっきの釣銭で880円貰ってる筈じゃねーか。何故?
無いものは無いので、とりあえず小銭で払う。さっき残っていた119円がここで活きた。丁度のお支払いでございます。
ここで脇道へ。ピッタリ出した時に、「○○円のお預かりです」と言われるのが嫌だ。それ、間違っているじゃん。「預かり」は、「返却」と対になってるんだぜ。丁度の時には、預かるという言葉が使えないって事です。丁度の時は、「頂きます」が正しいのではないだろうか。イマイチ自信ないけど。
99shopを出ながら、じっくりと財布の中身を確認してみる。小銭の残金は、50円玉1枚。しばし脳内で計算をかける。さっきの釣銭が880円じゃなく380円だったって事じゃねーか。
オレは、その足でセブンイレブンに舞い戻った。店内には、顔を赤らめ大声で話をする大学生らしきグループがいた。みな、一様にテンションが高い。
男(ヒゲ)「ツマミ、これじゃ足りなくねー」
女(セルフレームのメガネ)「これくらいで足りるよ~」
コイツ等、マジでうるせー。彼等は人生で最も楽な時期を生きているので、大目に見てやるかという余裕をかますような状況じゃなかった。
幸いにも、新入り君は同じレジにいた。
tks「すいません。先程夕刊フジを買った者ですが」
新入り「はい」
彼の顔には、「え?何?」と書いてある。構わず続ける。
tks「お釣りが880円の筈なのに、380円しか渡されてないんですが。その時に言えば良かったんですが、買い物をして支払いの時に気付いたもので」
これはクレームじゃない。当然の権利を主張したまでである。
言葉を失う新入り。オドオドしている。この状況を打破する程の経験がないのは明白だ。こんな態度をされると、オレも参ってしまう。まるで自分が悪い事をしているような気になってしまうからだ。オレは優しいんです。
そこに、新入りにとっての救いの神が現れる。オレにとってもであるが。30代前半くらいの店員だ。
新入りは簡潔な言葉で彼に事情を説明した。
救いの神「ただ今、確認致しますので少々お待ち下さい」
と言うや否や、レジの小銭を小銭数え機(正式名称不明。数字が書いてあるコインケース、瞬時に枚数が分かるスグレモノ。金庫残高を確認する時に重宝する)に入れていく。その動きは正確かつ俊敏。風が語りかけます。早い、早すぎる。
オレは黙って、彼の芸術的な手さばきを見ていた。全ての小銭の枚数が分かったところで、彼は後から電卓を持ってきた。
仕事柄、どうしても電卓はチェックしてしまう。CASIO製、オレが普段使っているモノより二回りくらい大きい。かなりの上物ですぜ。CASIOである点に親近感を抱いた。電卓は絶対にCASIOが1番使い易いと思う。
彼が電卓を叩き始めた。こちらは、さっきの動きが嘘と思えるくらい緩慢。その上、計算ミスもする始末。ダメだねえ。
顔を上げると、救いの神の横で、事の成り行きを固唾を呑んで見守っている新入りが目に飛び込んできた。実に不安そうな顔をしている。
退屈になったので、おでんに目を移した。さすがにセブンのおでん、美味そうだなあなどと思っている時、彼に声を掛けられた。
救いの神「誤差が出ておりますので、やはりこちらが500円をお渡しするのを忘れてしまったようです。申し訳ございませんでした」
『誤差』と言われた瞬間、オレは電卓の数字を覗き見た。3,989円。誤差の範囲を大きく逸脱してるだろ。
500円を手に入れることができたが、この後、救いの神に、こっぴどく怒られるであろう新入りの事を思うと、ちょっとだけ胸が痛む。オレが釣銭受け渡しの時に気付いていれば、救いの神にバレなくて済んだ訳だから。そうであったとしても、オレを恨むのは筋違いだけどね。彼のミスに違いないんだから。
傍らにいた新入りはオレに謝罪をしなかった。救いの神が頭を下げてるのに。ダメだねえ。これは釣銭をミスるより重大なミスだぜ。
tks「ありがとうございます。こちらこそ、お手数おかけして申し訳ありませんでした」
真の感情とは、かけ離れた台詞を吐いて店を辞した。
店を出る直前、女性店員に「ありがとうございました」と言われた。いつもと変わらぬ元気な声だ。やっぱり彼女の声は心地良い。その声で、凹んでいる新入りを慰めてやって欲しい。先程とは違い、心からそう思った。
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