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賛否両論

アクの強い作品はどうしても評価が二極化してしまう。鋭い槍のごとき毒が含まれる話が好きか否かという事が重要になる。

桐野夏生/残虐記★★★★☆
小海鳴海こと北村景子が、自分が少女誘拐監禁事件の被害者であった事を克明に示す手記「残虐記」を残して、突然蒸発した。

世間が報道を通して知っているのは、10歳の少女が、25歳の工員安倍川健治に拉致され、1年1ヶ月の間、自室に監禁されていたという事実だけ。

景子は救出された後、他人に事件について話しても決して理解されないという絶望を覚えため、事件に関して語る事を敢えてしなかった。

小学校6年になった時、景子は夜毎、逞しい想像力で「毒の夢」を作り上げていく。

暗い密室での生活を余儀なくされた主人公の心情や葛藤、詮索と好奇心に満ちた周囲の卑しい視線、そして、解放後の家族の態度やその後の崩壊などを、巧みな心理描写を用いて、リアルに、そしてクールに描く。そんな話。


この作品には本当に引き込まれた。余りにも重く毒々しいので、読後感はかなりヘビーである。でも、それでこそ桐野夏生だと思った。

この作品は、明らかに2004年、新潟県で起きた少女監禁事件に触発されて書かれたもであると思われるが、オレは、この小説を読んでみて、その事件とは何ら関係のないフィクションだとはっきりと感じ取れた。作家桐野夏生が、事件にインスパイアされたに過ぎないという立場である。

だが、そうは思えなかった読者も多い様で、被害者関係者を傷つける内容であると強烈に批判する意見も多い。まあ、賛否両論渦巻く「問題作」である事は間違いない。

救出後の精神科医、警察などの周囲の大人達の気味の悪い優しさや同情に、違和感を覚え、懸命に距離を置こうとする景子の心情は実に上手く描かれていた。分かるわと思った。腫れモノに触る様な扱いを受けるのは、やっぱり息苦しい。

周囲の卑しい妄想から、身を守るべく、心に幾重にも重なる硬い鎧を着込んだ主人公が、本当の自分を理解できるのは、もしかしたらケンジしかいないのではという心境を吐露するシーンは、強烈な哀しさと切なさが湧いてきた。

著者は、鋭い洞察力を働かせ、事件に巻き込まれてしまった主人公の心理の深部を抉り取る。桐野夏生の力を感じた作品である。

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